お父さんへ 10/25

小林麻央さくらももこスティーブ・ジョブス。この3人を知ってますか。順にフリーアナウンサー、漫画家、実業家です。皆、近年亡くなった有名人です。

この3人は共通点があります。どの人も病気で亡くなっていますが、病院の治療を拒否して自然療法等の民間療法を行っていたという共通点です。

小林麻央さんは乳がんでした。胸を切除することで治療はできたはずでした。が、彼女はその治療を拒否し、胸を温存しながら民間療法で治療をすることを選びました。結果、がんは進行し、その後に病院の治療に戻っても広がってしまったがんは治療することができませんでした。亡くなったときは30代でした。

さくらももこさんも乳がんで亡くなったそうです。当初は病院で治療を受けていたが、民間療法に頼った時期があり、結果 寿命を早めることになりました。

スティーブ・ジョブスはすい臓がんでした。東洋文化を尊重していたジョブズは西洋的な医術を頑なに拒否し、絶対菜食、ハリ治療、ハーブ療法等々の東洋的な民間療法に頼りました。後に彼も病院の治療に戻りますが、病状の悪化は食い止められず亡くなりました。56歳でした。

この話を聞いてお父さんは彼らをどう思いますか。

私はこれまでこういった有名人の医療拒否の話を聞くたびに、なんと馬鹿なことだろう、と呆れていました。賢く才能あり最新の医療を受ける経済的な力も十二分にあり、多くの人に支持されている人たちが、なぜこんな非科学的な民間療法に頼るのだろう、と。

けれど、お父さんが透析を頑なに拒否しているのを聞き、考えは変わりました。命がかかった病気を前にして、人は科学的な治療を信じられなくなってしまうんだろう、そういうこともあるのだろう、と。

私が子供の頃から見てきたお父さんは、科学を肯定し、根拠のない民間療法に頼る人は「だらじゃないか」とバカにする、そんなイメージがありました。そんなお父さんですら、病院の薬も透析の機械も近代医学まるごと否定して、自分の思う民間療法にこだわるのですから。

お父さんは自暴自棄になって病院を拒否しているのではないと私は思っています。

むしろ、今のお父さんが真剣に考えた結果、よく生きる方法が病院の拒否なのだろうと思っています。

でも、その考えは私も、お母さんや妹たち、おばちゃん達も、それはおかしいと感じています。

慢性腎不全は治る病気ではありません。長年、酷使した腎臓がうまく使えなくなってしまい、それを完全に治すことはできません。けれど、うまく動かない腎臓のやっていた機能を透析の機械に肩代わりさせることで、体は健康な状態に保たれます。

腎臓は体の中の不要な水を排出します。弱った腎臓はこれができないため、透析の機械が血液から不要な水分を出して排出します。

腎臓は血液の成分を整えてきれいな血液を全身に巡らせます。弱った腎臓は血液の成分を整えることができず、必要な成分が不足したまま体に送ります。けれど血がいくら送られてきても必要な成分が含まれていないため、体は何度も何度も血を送り出すことになります。体は必要な成分が得られず弱っていき、血管は何度も血液を送ることで疲労していきます。これを透析が腎臓の機能を肩代わりすることで、適切な血液の成分を血管に負担をかけずに送ることができるようになります。

慢性腎不全は治すことはできませんが、透析を受けることで健常者と同じように生活することができるようになる、とされています。日本では約33万の人が透析を受けています。

透析も万能ではありません。体が透析の負担に耐えられないからこの人は透析治療をしない、と医者が診断する場合もあります。けれどそれは一般的には85歳以上とされています。お父さんは76歳であり、透析治療で腎臓の負担を肩代わりすることでまだまだ元気に過ごせる年齢であり、だからこそ医者も透析を勧めているのです。

お母さんも私も妹たちもおばさん達も、お父さんに治療を受けてほしいと思っています。が、慢性腎不全なのはお父さんで、お父さんの意思が何より尊重されるべきだと思います。それが私達の目には、お父さんが自分からみすみす命を短くするようなものであっても、しょうがないと思っています。

それでも、もしお父さんが少しでも気にかかることがあれば、一度検査だけでも病院に行ってくれたらと思います。